PEOPLE
ピースな人々
「アートを気軽に購入する国民性」を定着させたい。
社会福祉法人グループ ISIAL代表
石丸徹郎さん
引きこもり復帰支援企画で若年障がい者の直接支援に携わったことを機に、若い世代の障がいのある方に向けた就労支援の必要性を感じ30歳で就労系福祉サービス事業所を開設。障がい者就労訓練の一環としてデザイナー、クリエイターとして収入を得ることができるサービスの提供や、個人事業主として模擬就労ができるワークスペースの開設など、「働くこと」、「生きること」の自主性と多様性に挑戦できる訓練を提供している。福祉施設の新しい価値づくりを目指して、地域や企業にとっての福祉施設の役割を再構築する事業所デザインにも注力している。「意志ある仕事づくり・意志ある人生設計のために」を掲げて活動中。
アートの効果。
ーアートやものづくりに関わることは、ISIALの利用者さんや、ISIALの事業にどのような良い効果がありますか。
石丸さん:
アートやモノづくりに没頭することで、自身の力・能力で経済活動や企業と関わる事で生き方の選択肢が増えたり、新しい環境に飛び込むキッカケを得ることができています。また創作したものを通して他人との接点が生まれるので、自身を障がい者ではなく「アーティスト」として人間関係を作ることができていることは非常に良い影響を与えていると思います。
ISIALが企画・運営するアートプロダクトブランド=VOTEの直営店にて。
ISIAL代表の石丸さん(左)と、=VOTE代表の坂井さん。
ー創作で生まれたアートを使って、名刺入れやポーチなどの商品を作られていますが、アートをプロダクトへ変換する時のポイントはなんですか。
石丸さん:ズバリ消費者目線です。コスパが見合うもの、お土産として誰かに渡した時にドヤ顔できるもの、ストーリーと共に贈ることができるもの、しっかりと作られているものです。福祉事業所で生まれる商品ですが、売りたい市場は一緒なので、その他多くの流通に乗せる商品と同じようなことを気にしています。
=VOTE(東彼杵町)の店内。多くの作品、プロダクトが展示されている。
ラッピングも工夫されたデザイン性の高い商品。=VOTEのブランド名は「投票」の意味。
アーティストとしての売り出し。
ーISIALはマーケットも福祉の世界を飛び出しています。障がい者アートとの売り方もされるケースもある中で、一人のアーティストとして売り出していらっしゃるのが印象的です。
石丸さん:
障害者をつける意味がわからないからです。私は裸眼視力が0.2ですが「視力が悪い石丸です」と自己紹介はしません。アートを伝える際には、障がいを枕詞のする必要がない場合が多いです。逆に障がい理解啓発や障がいのある方への支援の際に障害というワードが必要なことは往々にしてあるとは考えています。
私たちの肌感では「障がいのある方が作っています」という謳い文句はかなり減っていっているように思います。
いずれにしても「障がいのある方が作った」というフレーズを使う意図から、「かわいそうだから」を伝えるニュアンスはなくなりつつあるように感じます。
アーティストさんの活動名とプロフィールも展示されている。
ーCSRやSDGsに取り組みたい企業に向けては「福祉の現場で生まれていることを活用してほしい」と伝えられているそうですね。福祉の現場生まれである商品の特徴を「セールスポイント」とされているのがとても自然だと思いました。
石丸さん:
企業は障がいのある方の活躍の機会創出や実績を伝え、障がいのある人材の活躍のフィールドを伝えるために「障がいのある方が作った」をあえて使用しているようにも思います。地域の一企業として、地域経済や活性を担う存在でありたいです。
地域にISIALがあってよかったと思ってもらえることが嬉しいし、福祉業界が活躍するモデルを作っていきたいと思っています。一般企業は、福祉事業所をもっと活用できると思います。利用もしてほしいです。
「アート×サステナブル」で生まれる文化とビジネス。
ー=VOTE(イコールボート)では、企業から出る廃材を使ってプロダクトを作られています。「サステナブルな取り組み」と「アート(文化)」を掛け合わせることにより、どのような化学反応が生まれていますか。これまでの事例で特に印象的なものがあれば教えてください。
石丸さん:
企業の廃材の利活用、アップサイクル等はこれまでも声高に謳われてきていましたが、大抵の場合逆に手がかかったりコスト高になりお金を出してサステナブルを実践している企業も少なくなかったと思います。ですが、企業にとって福祉のものづくりとの協業へ廃材を提供することは、社会的意義ある活動であり産廃処理費用の節約となる。福祉側も原材料費の節約や企業とのタイアップによる販路の獲得など互いの活動にとっても有益です。
アウトレットとしてただ同然で販売していたものが、福祉のモノづくりを経由することで何倍もの価値で取引されるプロダクトに生まれ変わっていることは面白みを感じます。
廃材を組み合わせて作ったケース。全てが一点もののデザインになる。
廃材を使った壁飾り。「これはなんですか?と聞かれると正直困るのですが、よくわからないけどかわいいし、何これと気になるチャーミングさがあります。自由に楽しんでもらえたらと思います。」と坂井さん。
ーISIALは「仕事づくり」を重視されていますが、「文化活動」と「仕事」を両立させるために工夫していることはなんですか。
石丸さん:
ISIALが提供する福祉サービスは就労・自立が命題です。経済活動に繋がる創作であること、ご本人のため且つご本人が望む未来につながる創作であることを常に意識しています。また、マネタイズのために、地域経済のマーケットを常に意識し、思いついたアート事業はとにかく実践するようにしています。
日常にアートがある国にしたい。
ー「ISIALのアート活動」は、どのように世界を変えるでしょうか。
石丸さん:
ISIALのアートプロダクトは、手軽に気軽に手に取ることができるものばかりです。数百万円の値付けはしていません。最大のテーマはアートを気軽に買いに行く国民性を作ることです。アートを買いに行くことが日常という文化を日本中へ定着させることで、アート活動に適した人材が創作で自立できる社会が生まれると思います。
アート活動に没頭することが、経済的自立に直結する仕掛けづくりをして、人々の意識や地域社会の中に「アート」が定着することで、カメラマンのようにアートマンという仕事が当たり前になっている世界になったらと思います。
ー長崎の文化は「交流」で育まれてきた一面があります。ISIALのアートはどんな交流を生んでいますか。
石丸さん:
アートショップでアートを販売することで、障がいのある方を、障がい者ではなく「アーティスト」として地域の人々・企業につなげています。地域企業から仕事の依頼が当たり前に来るようになり、地域の人や社会との交流を生み出すことができています。
ISIALのアーティストさんには、すでに固定ファンがいて「◯◯さんの新作が欲しい」と求められる方もいるんですよ。長年一人のアーティストを追いかけてくださる方は、作風の変化も把握していらっしゃいます。
ちなみに、東彼杵町の直営店の展示イベントで最も売れたのは原画でした。正直、プロダクトの方が売れるんじゃないかなと思っていましたので、絵が売れたことにとても手応えを感じていますし、アーティストさん達の反応もいいです。自分の絵はもちろん、誰の絵がどれくらい売れているのかは、やはり気になるものです。
店内に展示される原画。1回の展示企画で合計100点円以上を売り上げた。「アートを買うことを身近に感じていただけたのではないか」と石丸さん。アートに親しむ国民性が定着することを期待する。
地域の暮らしが、やがて「文化」になる。
ー今後したい活動はありますか。
石丸さん:
大きく2つあります。
ひとつは、創作に関わっている人を表出させていくこと。他事業所の支援員さんがふと見せてくれたノートの中に、とても素敵な作品が挟んであるのを見かけました。思わずその方の作品について尋ねたことがあるのですが、普段はアーティストとしては活動されていらっしゃらない方でした。すでに活躍している方の他にも創作活動に関わる人が表出するような仕組みづくりを実践していきたいです。
もうひとつは、他のアーティストとのコラボです。福祉のフィールドに関係なくいろんなアーティストとコラボして、アートや商品をどんどん市場に流したいです。やはりマネタイズしようとした時はプロのデザイナーと組んだ方が強いのです。本当は組みたくて仕方ないが、コスト面で断念しているのが現状です。それに比べると、企業とのコラボはできている方です。ただ、もっと知ってほしいですね。こんなにも多くのアーティスト、イラストレーターが集まった集団ってなかなかないと思うんです。躊躇せずに、どんどん問い合わせて欲しいです。
「イラストレーターやアーティストがこんなにも集まっている場所はほとんどないはず。地域の企業さんにも、もっとISIALのアーティストを利用していただけると嬉しいです。」と石丸さん。
ピース文化祭へ向けたメッセージ
地域の暮らしの中で繰り返された活動が、後に「文化」と呼ばれるようになっただけで、スタートは当たり前の日常の活動だったはずです。文化は特別なものではないと思います。その人が繰り返してきた時間こそが特別でかけがえのないものです。自分にとって心地いい時間を繰り返すことが後に人の心を揺さぶる何かに変わると信じています。