PEOPLE
ピースな人々
葉っぱや紙に命を吹き込む。
クヌギの葉を折って作り出す、生き生きとした動物たち。下絵なしにスルスルとはさみを入れて出来上がる、精密な切り絵。
切り絵・折り葉作家の渡邊義紘(わたなべ よしひろ)さんは、これまで国内・国外で多くの作品展に出展してきました。


ながさきピース文化祭2025でも、2月8日に行われたプレイベント「ピースピース工場 ツナグ・アートワークス in チトセピアホール」に参加。義紘さんが出演する映画「日日芸術(にちにちげいじゅつ)」の上映会終了後に、観客の前で折り葉を実演いただきました。
今回は、自閉症の義紘さんをマネージャーとして支えている母・仁子(もとこ)さんにお話を伺いました。
ー 切り絵と折り葉、どちらを先に始めたのですか?
切り絵の方が先ですが、ほとんど同時です。切り絵を始めた後、割とすぐ折り葉も始めました。


ー とても緻密な切り絵ですが、どのように作っているのでしょうか?
紙とハサミを渡せば、フリーハンドで切り始めます。下絵はなく、1本たりとも線は引きません。
全く迷いなく集中して切り続けて、失敗することもほとんどありませんね。


どこも切り離さずに切り込みを入れていくので、広げたら一本の紐みたいになっています。下手するとピッと切れちゃいそうな程細長いんです。

ー すごい、本当に一本につながっていますね。
「折り葉」との出会い
ー 義紘さんと折り葉との出会いについて教えてください。
折り紙に夢中になっていた時期が2年ほどありましたが(10〜12歳頃)、それとは別にお菓子の包み紙や銀紙をよく手の中でいじっていたんです。それがいつの間にか恐竜やゾウになっていたり…「折り葉」はその手遊びの延長線上の作品だと思います。
校庭の真ん中にくぬぎの木が1本あり、いつもその木の下で遊んでいました。
たまたま葉っぱを折って、私のところに持ってきて。「これは可愛いね」と言ったら、それからはずっと葉っぱを折るようになりました。12歳のときに折り始めて今35歳なので、もう23年になりますね。


その時の作品もちゃんと残っているんですよ。その頃はまだシンプルな形でしたね。年齢とともにクオリティも上がっていき、今はこんなに動物の形・表情が出せるようになりました。
ー 20年以上も前の作品が綺麗に残っているのはすごいですね。
折り葉はとにかく湿気に弱いんです。だから作品は空き缶の中に入れて、それを更にケースの中に入れて保管しています。作品を保管している部屋があるんですが、湿度が高いと感じたら除湿をしています。


作品をアクリル樹脂の液に入れれば、おそらく永久保存できるはずです。それも考えたんですが、作品が固定されて動きがなくなってしまいます。それは面白くないと思うんです。可愛くないし、つまらなくなってしまいます。だからアクリル樹脂で固定する方法はやめました。形あるものは、そのうち壊れるからと考えるようになりました。
ー 美術館への所蔵はないのですか?
材料が枯葉なので「生物(植物)」の扱いとなり、美術館などでは展示や所蔵が難しいのです。
そんな中でも、ベルギーのギスラン博士博物館・オランダのアウトサイダー・アートミュージアムから「きちんと保管しますよ」とお話しをいただいて、所蔵してもらっています。
ー すごいスピードで動物が出来上がるんですね。
早いです。10分もあれば1体出来上がります。早くしないと、葉っぱが乾燥して折れなくなってしまうんです。
乾きすぎたら割れてしまうし、湿っていれば元の葉っぱの形に戻ってしまう。
どんな条件で折り葉ができるのかというのは、もはや感覚に頼る部分が大きくて、本人にしか分からないことかなと思います。




体験重視
ー 義紘さんがつくる動物や虫はとてもリアリティがあります。参考にされているのものや、情報源を教えてください。
はじめに自閉症について勉強したときに、専門書を読んだんです。その中で「言葉で説明しても、教えても分からない。体験するしか知識を増やしていく方法はない」って書いてあったんです。「そうか、それなら体験できるようにいろんなところに連れていこう」と。動物園などによく出かけました。また、動物が出てくるテレビ番組も好きでしたね。
今は図鑑も何も見ずに作っていますが、そうやっていろいろ体験して、見てきました。




ー 子どもの頃からたくさんの体験をされてきたのですね。
折り紙の教室はもちろん、陶芸や日本画、粘土などの教室にも行きました。
折り葉は特に教室に行ったわけでもなく、自分で始めたのですが、いろいろな事をやってみた中でも、折り葉と切り絵はずっと続けていますね。
ー 義紘さんの技は、どのように磨かれていったのですか?
作り始めた頃は本当にシンプルだったんですよ。だけど年齢が上がっていくにつれて、技術も上がっていきました。
時には私がアドバイスすることもあります。リアルすぎると何の動物か分かりづらいから「アニメに出てくるネズミさんにして」とか、四つ足の犬ばかり作っていたときは「お座りさせてみて」と言ってみたり。
そのように伝えたら、すぐ理解して作品に反映していますね。




ー 義紘さんのサポートのために、仁子さんが取り組まれていることはありますか?
完全にマネージャー業ですね。毎日作品を作って私に渡すので、それを全部種類別にストックしています。
展覧会の際には、キュレーターさんが選んだ作品をケースに入れてお渡ししたり、細かなやりとりもします。


ー ながさきピース文化祭2025では、今回のプレイベントに加えて会期中も参加されると伺いました。
はい、9月の全国障がい者作品展・講演会~アール・ブリュット展~に参加します。
今日は折り葉の実演でしたが、次は切り絵の実演を行う予定です。是非いらしてくださいね。

ー 本日はありがとうございました!9月の実演も楽しみにしています。