PEOPLE

ピースな人々

器が変われば、食文化も変わるかも。

ピースな人々

藍染窯 代表
樋渡常司さん

400年のやきものの歴史を持つ波佐見町で、1991年に創業。以来、日常に寄り添う器を企画・製造し続けている。2022年には陶製のアウトドアクッキングギアブランド「hime(ハイム)」を立ち上げる。日常の食卓で求められるニーズに応え続けたノウハウを注ぎ開発されたhimeは、その使い勝手の良さや、デザイン性、カラーバリエーション、アウトドアだけでなく日々の料理でも使える点が高い評価を得て、「長崎県デザインアワード2023」で銀賞を受賞。

ー波佐見焼は身近でありながら400年の伝統がある産地です。その伝統を感じる瞬間を教えてください。

樋渡さん:
私が歴史を感じるのは、パートナー企業様とお話しするときです。波佐見は分業制のまちなので、それぞれのスペシャリストがおられます。生地屋さん、釉薬屋さん、土屋さんの知識と技術にはいつも感心させられ、この専門性が波佐見焼を残してきたのだと気付かされます。
例えば、ピンチの時は皆さんを頼りにします。新商品を作る時や、既存商品で不具合が起きたときなど、困ることは実はとても多いんです。町にある長崎県窯業技術センターに相談することもありますが、生地屋さんの長年のカンなどは本当にすごい。多くの職人の知識や経験が、400年の歴史を繋いできたのだと思います。

代表の樋渡さん。


ー日用品としての波佐見焼の魅力はどんなところだと思いますか

様々な生活シーンに対応できるデザイン性と、分業制だからこそかなう、フットワークの軽いものづくりも魅力です。また、多品種、大ロット、小ロットをある短納期で生産できるところだと思います。自社一貫生産だと到底追いつきません。

ー波佐見焼を生み出す上で、どんな文化を学ばれていますか?

樋渡さん:
「食文化」です。いろんなところに出かけていき、いろんなものを食べるように意識しています。
その中で、食文化の変化を感じたことは、米とお茶の需要が減りつつあるということ。弊社の統計でも、10年前と比べて飯碗の受注が5割程減っています。そして湯呑みからマグカップへと需要もシフトしています。波佐見焼の場合、一つのラインナップを作る際は、飯碗やコップからサンプル製作をスタートさせるのが通常でした。しかし今は、飯碗がつくらずに、お皿からサンプルを作ることもあります。
今後は、再び「米」「茶」にスポットを当てて商品開発をすれば、日本ならではの食文化を取り戻せると考えています。

ー波佐見焼は発展するためにどのような変化をしてきていると思われますか。

樋渡さん:
まず、自分たちの親世代が今の波佐見焼のブランディングに力を入れてくださって、今の波佐見焼があるんだと思っています。
おかげで波佐見町には観光客、国内のデザイナー、国外のデザイナー、作家、いろんな人たちが訪れてくれます。たくさんの方達と交流することによって、ヒト、モノ、コトの3つを作っていけば産地としてさらに成長していくのではないかと思っています。これからその先を作っていくのは自分たち世代の責任です。

オリジナルブランドの広報を一手に担うスタッフの吉田さん


ー藍染窯の伝統やモットーを教えてください。

樋渡さん:
「good life maker」を掲げ、モノを作る前に「コト」をしっかり作り上げるようにしています。故に、突拍子もないニッチな物作りになりがちです。そして「できません」と言わないようにしています。まずチャレンジしたいですね。
そんなこんなで、釉薬の数が今では80種類、土の数が5種類といろんな要望に応えられる環境が出来上がっています。

ーアウトドアクッキングギア「hime」開発にあたっては、長崎県窯業技術センターと協働されました。藍染窯さんにとって、センターはどのような存在ですか。

樋渡さん:
相棒です。担当していただいてるお二人の方が揃ってアウトドア好きだったのが大きかったです。打ち合わせが毎回楽しくてワクワクしながら楽しくものづくりができました。かといって、楽しいだけではなく問題が出たらすぐに対応していただいたり、デザイン性の高いものを提案してくれたりと大変心強い存在でした。相棒です!

himeの開発チーム。左から石原さん(長崎県窯業技術センター)、樋渡彩さん(藍染窯)、樋渡常司さん(藍染窯)、依田さん(長崎県窯業技術センター)。依田さんは企画・設計に携わった。


ーhimeは初めての自社ブランドだそうですね。

樋渡さん:
初めて自社でブランドを立ち上げ、外部のデザイン事務所にブランディングをお願いしたのですが、そのことが凄くhimeにとって大きかったと思います。だからこそ、良くも悪くも同じ業界の方々にも気にしていただいていると思います。普通、窯元がここまでやる事はないので。
お客様からは「おしゃれ」「かわいい」と反応をいただきました。キャンプ業界のグッズは基本的に色はブラックが多く、カラーとデザインが斬新だったんだと思います。ですが、僕らのアピールポイントは機能。買って使って頂いた方から「ものすごく美味しく出来上がった!」というレビューをたくさんいただきます。美味しくできたから追加で購入したという声もいただき喜んでいます。商品を通して喜んでいただけましたし、直接お客様の声をいただいて、心から「himeを作って良かった」と思っています。

金属製にはない形状、カラーバリエーションで支持されたhime。


「機能性の高さ、使い勝手の良さにも拘っています」と樋渡さん。


ーこれからも波佐見焼という文化を未来に残すためには何が必要か、何に取り組んでいくか教えてください。

樋渡さん:
多くの産地で共通の課題になっていることですが、後継問題に向き合わなくてはいけない状況です。技術の前に、まず携わってもらうことをしないと、未来には残せないと思います。
自分たちができることは「見え方」を変えること。伝統産業ということで堅いイメージなのか、なかなか波佐見焼に携わりたいという若い担い手が減ってきています。まずその見え方は変えていきたいと思っています。嬉しいことに弊社の社員は若い子が多いです。いかにこの世代に、仕事のやりがいと楽しさを感じられる環境を作るかが、僕の仕事だと考えています。実際、毎日仲良く楽しく仕事ができていると思っています。
そんな様子を多くの人に見てもらうことも、波佐見焼という文化を未来に伝えていく活動の一つだと思っています。
就職先がどこもないから仕方なくやる、気持ちは乗らないけど家を継ぐのではなく「波佐見焼を仕事にしたい!」と思える産地にしなくてはと思っています。私たちの使命ですし、波佐見焼という文化を未来に継承するために必要なことだと思っています。


ピース文化祭へ向けたメッセージ

弊社は「オープンファクトリー」の体制をとっていて、営業時間ならばいつでも無料で工場見学、絵付け体験(有料)OKとなっています。波佐見焼という文化を身近に体験してもらい、使い手として、担い手としての出会いの場にしたいと思います。

体験を通して波佐見焼が作られる過程を見ていただきたいですし、波佐見焼に携わりたいと思ってくれる人が一人でも増えてくれたら嬉しいです。
ピース文化祭で長崎に来られた方には、ぜひ波佐見町で波佐見焼の買い物や体験を楽しんでください。

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